「大学のサークルで価値観が変わった」性依存症のありのままの現実 – DiaLogue

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“出会うことのない誰かの話は、隠されたあなたの親友の話かもしれない”をテーマに大学生のXが様々な人に話を聞きに行くDiaLogue。その第一回目となるテーマは性依存症だ。

「性依存」とは性的行動のコントロールが困難となり、社会生活(会社・学校)・日常生活(家庭)において問題を生ずる状態と定義されます。―「性依存」とは | 銀座泰明クリニック

性行為で自分を保つ

ケシキさんは1990年代後半に愛知県に生まれた。父は化粧品会社で勤務し、母は製造業で働くごく普通の家庭だ。

高校までは実家で育ち、大学に進学後は一人暮らしをした。

「大学生の頃はいろいろな男性と遊んでいました。周りの大学生も遊んでるわけだし当時は『普通でしょって』思ってましたね」

入学後はいわゆる“飲みサー”に入った。1年生の春に勧誘を受けた時は企業研究サークルと聞いていたものの、入ると飲み会がほとんどだった。ケシキさんはサークルの飲み会で「これが大学か」と感じながら、自分も徐々にその環境に染まっていったという。

「多くの異性と関係を持つことが一つのヒエラルキーだったんですよ」

“彼氏がいればいい”という今までのケシキさんの価値観はこのサークルに入ったことで徐々に壊れていった。

男性は飲めるお酒の量、女性は関係を持った異性の数がサークルの1つのヒエラルキーだった。サークルの部長など地位が高いとされる人と関係を持った時には一時的に自己肯定感が上がったという。

大学生の頃は彼氏がいたのにもかかわらず、様々な男性と関係を持っていたたため悪い噂が立つこともあったが「全部事実だから気にしなかった」と振り返る。

親友である幼馴染に「遊び方がおかしい」と言われても、ケシキさんの周りの大学生は彼女と同様に様々な男性と関係を持つ人が多かったため聞く耳を持たなかった。

しかし大学を卒業し就職をしたころから、徐々に自分の感覚に違和感を覚え始める。

「明確に自分がセックス依存症だと気づいたのは社会人になってからです。大学生の時から関係が続いていた4人くらいのセフレとも就職を機に徐々に会わなくなっていくんですよね。潮時みたいな。セフレが全員切れた時に、私は今の旦那になる人と交際関係にあったのに『もう男のストックないじゃん』って思ったんですよ」

誰もいないクリスマスの朝

ケシキさんは交際している男性がいたのにもかかわらず、他の異性との関係が切れたことに焦りを感じていた。

「1人の男性だけだと関係がなくなった時に孤立してしまうから怖い」

その恐怖を埋めるために大学卒業後はマッチングアプリを使い、常に3人ほどの男性と性的な関係を持ち続けた。

ケシキさんは極端に孤立を恐れるようになった原因は幼少期の環境にあると話す。

「小学生の頃に親が弟のサッカークラブに送り迎えをしていたんですけど、その間ずっと一人で寂しかったんですよ」

ケシキさんの弟は週2日しか休みがないサッカーのクラブチームで活動していた。母親がその送り迎えと付き添いをしていたため、一人で家で過ごす時間が長く寂しさを感じていたという。

そしてケシキさんが小学5年生だったとき、孤独を突き付けられる出来事が起きた。

「小学5年生のクリスマスのときに、朝起きたら家に誰もいなかったんですよね」

ケシキさんはとてつもない寂しさを感じたものの、それを両親に伝えることはなかった。自分は両親から塾に通わせてもらい、お金をかけてもらっていると感じていたため言いづらかった。

ケシキさんは自分の根底には大きな寂しさがあると話す。

ケシキさんにとって性行為は自分を試す道具でもあった。

「1回セックスをして、そのあとも関係が続くかどうか試している部分もありますね」

自分の容姿や女性としての魅力がまだ健在かどうかを確認する手段として、性行為を利用した。相手が関係を続けたいと思うかどうかが、自分の価値を測る指標だった。

たとえ相手が好きではない人だったとしても、性行為の最中は「自分が必要とされている」という感覚を得ることができた。そして心の不安を一時的に解消していた。

「セックスすることで自分を保っています」

気分が沈んだ自分を“ニュートラル”に戻すために性行為を行う。

しかし次第に“セックスを用いないコミュニケーション”が難しくなっていった。

「男性の中では女性の魅力を武器に戦えますけど、女性の中だと素の自分で戦わなきゃダメなんです」

ケシキさんは性行為を「コミュニケーションツールであり武器だった」という。男性と話す時は自分の魅力を活かして関係を築くことができたものの、女性にはそのような方法が通用しないためなかなか深い関係を築けなかった。

大学生の頃もそれが理由で友達ができずに一人でいる時間が長かったという。

「私が直すべきはセックス依存症よりも人間関係の築き方かもしれません」とケシキさんは語る。

アプリで出会った男性のせいで自己破産

「Tinderで出会って1年くらい関係が続いていた人に『キッチンカーの事業を一緒にやらないか』と話を持ちかけられました」

当初「お金の持ち出しは必要ない」といわれていたのにもかかわらず、男性から頼まれてお金を貸すことが多々あったという。貸したお金は返ってくるものの、かなり時間がたってから返されることもあった。

仕事を転々とする中で当時は無職だった。

貯金を切り崩しながら生活していたため、お金を貸すこと自体が大きな痛手だ。そのため100万円を貸した時には数か月風俗店で勤務したという。

さすがにもう協力できないと思ったケシキさんは男性にその旨を伝えると、いままで返されていたお金の返済が止まった。そして事業の様々な名義がケシキさんになっていたためその請求が来た。

「一番大きかったのはキッチンカーの連帯保証人になってしまったことですね」

様々な請求を返済することができず、ついには自己破産に追い込まれた。

なぜそのような状況に陥るまで男性と距離を置かなかったのか尋ねると、彼女は「関係が切れてしまうことが怖かった」と答えた。

緊急搬送で妊娠が発覚

「社会人になってから責任があるという環境がきつかったんです」

学生時代のアルバイトまでは上手くいっていたものの、社会人になってからは“責任ある正社員”という環境が合わず職を転々とした。その仕事のストレスから逃れさせてくれるのは性行為と市販薬でのオーバードーズだった。

「死にたいとまではいかないけど、無の状態だとずっと考え込んじゃうからOD(オーバードーズ)をしていました。めっちゃ気持ち悪くなったり体調悪くなったりするんですけど、他のことを考えなくて済むからそっちの方がいいんです」

当時のケシキさんが関係を持っていた3人は全員が社会人だったため、仕事終わりか土日を使い週1,2回の頻度で男性と会う予定を組んでいた。

「旦那にはバレないように完璧に異性と会うシフトを組んでいました」

ケシキさんの夫に浮気がバレたことは一度もなかった。しかし、ある出来事がきっかけでその秘密が明るみに出ることになる。

ケシキさんが自宅でオーバードーズし、夫の付き添いのもと救急搬送された。そのときの血液検査で、夫以外の男性の子供を妊娠していることが判明したのだ。

「一番好きだったセフレだったので避妊を求めなかったんです。付き合いたいと伝えたことがありますが『それは絶対にない』と言われました」

その男性とはTinderで出会った。子供を堕ろすことになった後も関係は続いた。

ケシキさんの夫は救急搬送に連れ添ったときに彼女が他の男性の子供を妊娠していた事実を知った。しかし半年間それを彼女に告げることはなかった。

「夫が私にその事実を告げたのは発覚してから半年後のことでした」

ケシキさんはあるとき夫が家の法事や家族行事に全く参加しなくなったことに対して怒りをぶつけた。そのときに夫は「今までのことは全部知っているから」とケシキさんに明かした。

なぜここまで事実を知りながらケシキさんに話さなかったのか。ケシキさんは「話す体力がなかったんだと思います」と、夫がショックで話せなかったのだろうと語った。

現在、ケシキさんと夫の関係は冷え切っており、二人の間にはほとんど会話がない。

「私が作ったご飯を夫が食べるだけの関係です」

ケシキさんは自分の行動が原因でこのような関係になってしまったと分かっているため、自分から夫に歩み寄るべきではないと考えている。

大学生の自分に戻るなら

「今みたいに遊べるのは辛いですけど、あと2,3年だと思ってます。」「そう考える自分がおかしいと思います。」

暇な時間があると考えこんで不安になってしまう。今まではその溝を埋めるために男性と会っていたのに、年齢的な限界が近づいてくる。

「死ぬかもしれないですね(笑)」

2,3年後は現在の旦那さんと二人で生きていくのか聞くと、冗談交じりに彼女は答えた。

大学生の頃にあのサークルに入っていなければこんな価値観にはならなかったかもしれない。それでもケシキさんは当時の自分にアドバイスができるなら「もっと遊んでおきな」と言うと話す。

「今の価値観を持ってしまったらそこまで自由にできることはないです。だからこそ今のうちに遊んでおきなってアドバイスします」

昔の自分には戻ろうと思わない。

「純潔な自分に戻ろうと思いません、寂しい自分だけが残っちゃいますから」

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